Posted: Mon, 7 Dec 1998 17:43:36 +0900
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野沢@お丸山店長です。

このところぶり返した天文熱のせいで、古カメウィルスは大人しくしてたら
しく、しばらく“思カメ”をさぼってました。
秋が過ぎ冬となって星空は益々冴え渡り、いよいよ天文熱が沸点に達するのか
と思ったら・・・・さにあらず。
やっぱり冬は寒いので、コタツで“思カメ”でも書こおっと。
そんなわけで、No.8〜11とレンジファインダー機が続きましたから、ここら
でまた一眼レフに戻ってみたいと思います。
とは言え、普通の一眼レフカメラというのもなんなので、今回はすこし毛色の
変ったヤツを取り上げてみましょう。


          野沢@古カメ党の
             “思い入れのカメラ”コーナーNo.12

Q:レンズ交換可能で世界一小型軽量な一眼レフカメラは?

オリンパスOM−1、またはペンタックスMシリーズと答えた方は軽度。
オリンパスペンFシリーズだと思った方は中度の障害かな?
しかし、どちらも正解ではありません。
もっと、ずっーとずっーとちっちゃいの....
(と書けば思い当たる方もいるはず。そんなアナタはかなりのビョーキモンよ。)
そうです、アレです。
かつて「旭屋」さんから発売された「ペンタックス・オート110」がそのカ
メラなのであります。
流石、一眼レフの老舗、旭屋。やってくれたじゃあーりませんか。
外観は誰が見ても一眼レフカメラそのもの(一眼だから当り前なんだけど)。
しかし実物を見た時、あまりの小ささに思わず腹を抱えて笑っちゃいました。
67弁当が出た時はそのあまりのデカさに卒倒しそうになりましたが、このオ
ートワンテンの場合は、35ミリ判最小のMXがまるで67弁当に見えたほど
(実際の比率はそれ以上?)で、「これ、冗談でしょ?」ってな小ささだった
のです。(なにしろ、手の平にすっぽり隠れてしまうほどなので、これホンマ
に写るのかいな?と、ほんとに心配しちゃっいました。)
これで旭屋の一眼レフはワンテンから中判の67まで、あの35mm一眼レフ
カメラペンタックスの基本フォルム(ペンタプリズム部がぴょこんと飛び出し
た形)を踏襲してラインナップが完成したのでした。
(その後、セミ判の645においては横長フォーマットにこだわったために
この基本形をとれなかったのは残念、というより、まあ旭屋も良識あるメ
ーカーであったのだと安心したわけですけども)
発売されたのは1979年。
私が就職した年ですし、社会人になって初めて購入したカメラですからね、忘
れようったって忘れることは出来ません。
じつは、いま持っているボディは2台目で、最初のは初期不良でもあったのか
すぐ故障したためボディごとそっくり交換と相成りました。
その後は快調に動いていましたが、あまりガンガン使った覚えはないんです。
(トータルで10本も撮ってないはず)
なにしろフィルムが110(ワンテン)サイズなので、サービス判のプリント
でも粒子が粗れちゃって鑑賞にはイマイチでしたからね。
現在ならフィルムも相当進歩してるので結構実用になるかも知れませんが、肝
腎の110フィルムの種類がわずかしか販売されてない状況では、「かつて、
こんなカメラもありました」的コレクションアイテムとしかみられていないの
も事実でありまして、なんとも寂しい限りです。
これではあまりに寂しいので、「どうせ実用には乏しいけど、ならばひとつ、
システムでも完成させてみるべか」というわけで、交換レンズを数本例の中古
カメラ市で発掘して来たりして一通り揃ったのは3年前のことでした。

今になって思えば、ワンテンカメラでよくもあれだけのシステムを構築したも
んだ、と感心というか呆れてモノも言えないというか・・・・・・
あっ、いや、そんなこと言ってはいけませんネ。(造ってる方は真剣なんだか
ら)たとえワンテンであろうと旭屋さんは手を抜かず大真面目に取り組んだと
思いますよ。
その証拠に、ペンタックス・オート110には交換レンズが豊富に用意されて
まして、焦点距離の短い順から18mm、同パンフォーカス、24mm、50
mm、70mmといった5本の単焦点レンズ群に加え、のちに20〜40mm
のズームレンズがラインナップに加わりました。(開放値はすべてF2.8で
統一。尚、f=18mmレンズの画角は、35ミリ判のf=35mmレンズに
相当します。)
それぞれのレンズには専用のフードとフィルター、クローズアップレンズなど
も用意されてました。
ボディ関係のアクセサリーとしては、ワインダー、ストロボはもとより、視度
調整アイピースといった小物まで完備していたのです。
いまでも残念なのは、あれだけ交換レンズ出したのにマクロレンズを出さなか
ったことですかねえ。
あとマグニファイアーとアングルファインダー、それにデータバックがあれば
完璧だったのに....(まっ、誰も使わんとは思うけどね)
あ、そうそう、アメリカの中古カメラショップで珍品を見つけたんだった。
「ペンタ110用 ソリゴール 1.7Xコンバーター」(カメラボディと交換レンズ
の間に装着してレンズの焦点距離を1.7倍にするアクセサリー)ってのまであ
ったんですよ。
その名の通り、メーカー純正ではありません。こげなもん、さすがの旭屋さん
でも造らなかったのに、香港だか台湾だかの物好きなメーカーが発売したらし
いのですが、これってかなりのレアモノじゃないかな。(こんなの買う奴の方
が、よっぽど物好きでレアだわナ....)
ペンタワンテンで忘れられないのは、このカメラが記念すべき私の初めてのプ
ラスチックボディカメラだったということ。(前年にオリンパスXAが発売。
正にカメラのプラスチック化が急速に進行して行った時期でもありました。)
それに、初めてワインダーを買ったのも、またズームレンズやリヤコンバータ
ーというものを初めて体験したのもこのカメラでした。
35mm判一眼レフの交換レンズやアクセサリーって、結構いい値段するじゃ
ないですか。ところがオート110用はどれも安く設定されてたので、つい、
あれもこれもと手が出るわけ。気が付いたら全部揃ってた、なーんてことにも
なりかねない。
実際には揃えなくたっていいんです。必要になったらいつでも揃う。そういう
可能性(夢)があるってことだけで満足だったりするわけです。
結局、我々はカメラを買うことで、同時にこの「夢」も買っていたと言えるん
じゃないのかな。
正にこれこそがシステムカメラの醍醐味ってやつですからね。

このカメラの一番の魅力が110判カメラらしからぬシステム性にあったこ
とは明らかですが、ボディ単独で見ても十分魅力的だと私は思います。
非常に軽いのでオールプラスチック製かと思われてますが、どっこい、バヨネッ
ト、 レンズの鏡胴内部、ミラーボックス、ファインダー周りなどのピントに関係
する部位は金属製でしかっり作って有るそうです。(アサヒカメラのニューフェ
ース診断室の分解図を見ると、一眼レフのファインダーの要であるペンタ部は、
ミラーなんかでお茶を濁さず、ちゃんとペンタプリズムを使ってるようです。)
こんなおもちゃみたいなカメラでも要所要所を手堅く押さえ、じつに真面目に
造ってるですね。やっぱり旭屋は本気だったんだ!
それとデザインもいいんだな、これが。
標準レンズだけ付けたオート110を長めのストラップで首から下げると、あ
の江角のカメラよりカッコイイ!(マックスのカメラにだって負けやしない!)
まるでマスコットみたいにちっこいくせに、よく見ると形は一丁前に一眼レフ
してるんってところがニクイじゃありませんか。
よく二眼レフはウェストレベルだから写される側に威圧感を与えないので、一
眼レフより自然な表情を撮影出来る、とか言われてますけど、24mm標準レン
ズ付きのオート110なら、たとえアイレベルで構えてもおもちゃみたいでまさ
か本当に写るとは思えないのと、まるでお○ん○ん摘まむようにしてピントリン
グを廻す指先が滑稽なので、被写体は身構えることなど忘れ、もっと自然なショ
ットが撮れるかも知れない。こう思うわけです。(でも実際には、「そんなんで
ホントに写るんか?」と怪訝な顔されてしまうことのほうが多かったような....)
  ちっこい豆カメラのくせして、35mm判顔負けの充実したシステムを誇った
ペンタックス・オート110は、そこそこヒットとしたとみえてマイナーチェ
ンジ版の「オート110スーパー」まで出ましたが、世のワンテンブームは既に
下火になっていたため、あまり話題に上ることもなくいつしか忘れ去られていっ
たのでした。

ペンタックス・オート110のことをこうしていろいろ書いていたら、なんだ
か無性に撮りたくなってきました。
しかし、先程も書いたように現在ではフィルムが絶滅寸前の状態なのです。
(種類は非常に少ないが、今でもあるということ自体奇跡に近いのでは?)
それに、この110フィルムを現像処理してくれるラボのほうがもっと深刻かも
しんない。今、いったい何個所存在することか......

  今となっては、すでに「過去のカメラ」でしかないのだろうか・・・・・・



                     ―― 付録 ――

<おカメラ小説>

  「復活の日」―― あのペンタックス・オート110  いま蘇る!

ある日、いつものようにメールボックスを開けると、“デジカメの巨匠”から
メールが届いていた。
− − − − − − − − − − − − − − 
    ムシ@ネリマでっせ〜
    
    きのう会社帰りに池袋のビッグカメラに寄ったらさー
    例のデジカメキットがついに発売されてたのー。
    事前の情報では約1000ドルってことだったけど
    それよかだいぶ安かった(実売価格5万5千円)ので即購入。
    でもって、このあいだ勝岡さんから貰った「へど」とかいう
    名前は汚いけどライカそっくりのおロシアカメラに装着して
    使おうとしたら、
    いやーん、うまく挿入、じゃない、装填できないじゃん。
    どうしてかなあ?
    お願いお願い、詳しいひと誰か教えて下さい。
    よしなに〜。
    
    乢。
− − − − − − − − − − − − − − 

メールには画像ファイルが添付されてて(さすがデバ・・、いや、デジ巨匠)、
そこには底蓋を外したフェドと共に、やけに細長いデジカメユニットらしき
ものが写っていた。

「あーん?なんだこりゃー・・・・・まるでワンテン用のフィルムカセット
  みたいだなあ・・・・」

すぐにメールで詳細を聞いてみたところ、
待ちに待ったデジカメキットが発売されたので、巨匠は嬉しさのあまり
お店の注意書きにも上の空で、「110用」と書いてあったのを「110万画素
用」と勝手に解釈して買ってしまったらしい。
(「135用」は当分発売の予定はありません、との貼り紙もしてあった由。)

やはり、それはワンテンカメラ用のデジカメキットであった。

  御存じない方のために、ここで少しだけ説明しておこう。
ワンテンカメラというのは、今から約20年くらい前ちょっとしたブームを巻き
起こしたフィルムカセットをポーンと入れるだけで写せる簡単お気楽カメラで
ある。
カメラの初心者にとって、これまでの35mmフィルムの装填は煩わしく失敗し
易すいものとして敬遠されてきたわけだが、このワンテンカセットフィルムの登
場によって、誰でも失敗無くフィルムが入れられ、ダブルパトレーネ方式で巻戻
しも不要だったことが受けて、たちまち人気が出たカメラ形式である。
しかし、13x17mmという小さすぎた画面サイズが災いして、スライドや大
伸ばしプリントには不向きだったため、そのブームはじつにあっけなく数年で幕
を閉じてしまったのだった。

  今では忘れられた過去のカメラが、なんで今更、デジカメキットに?
と、いぶかしがるのも当然だと思う。
これはあとから聞いた話しだが、当初計画していた35mm判デジカメキット用
CCD(24x36mm)の生産現場での歩留まりが非常に悪く、とても量産な
ど出来るシロモノではなかったらしい。
これの半分以下のサイズなら問題ない、ということで、あのAPS判が候補に上
がったのだが、フィルムを底から入れる形式のAPSカメラではどうにもうまく
なかったらしい。(デジカメキットの形状を見れば一目瞭然)
かといって、このまま何も発売しないわけにはいかないメーカー側の事情なども
あって、急遽、往年の110カメラに白羽の矢が当てられた、というわけ。
だが、20年も前に流行った110カメラを今でも持ってる人など多くはない。
まして、それ用のキットを購入してデジカメとして使おうなどという奇特なヒト
となると、ほとんどいないのではないか。(こんなことはサルでも分かる?)
かくして、110用デジカメキットは発売早々からひどく値引きされて登場した。
にもかかわらず、かなりの数が売れ残ったと伝え聞いている。

で、巨匠が間違って買っちまった例のデジカメキットなのだが、巨匠がフェドに
無理やり押し込もうとした際、キットの外装にキズを付けてしまって返品出来な
くなり、結局、私の元へやって来たのであった(それも、巨匠得意の物々交換で)。
なぜ、私に廻って来たかというと、わけは簡単明瞭、他に誰もこのキットを使え
る人がいなかっただけなのである。いまどき110カメラなんか持ってるヤツ、
いるわけねーよなー。(当の私でさえ、持ってること忘れてたくらいだもの。)
それに、わたしゃまだデジカメ持ってなかったし・・・・
(こうまで条件が揃っちまうと、やっぱなんだな、これは運命つーもんかな。)
例の物々交換における当方の物品は、北沢家で使用する野沢麹店の味噌1年分と
いうもの。もちろん、贈答用とか誰かにあげる分は含まず、練馬の北沢家で食べ
る分だけだから、そんなもんたかが知れていると思ってたのだが....

  甘かった・・・・・・(味噌が、じゃないよ)

まだ3ヶ月目だが、北沢家には先月だけで5キロも送っただよ〜
なんでも、それまではパンにコーヒーだった朝食がご飯と味噌汁に変ったのは言
うまでもなく、夕食のおかずにもムキになって味噌を使ってる(魚の味噌煮、味
噌漬け、味噌和え、田楽・・・・えとせとら・えとせとら)ってえ話しだ。
お丸山店としては経費扱いにしたのだが、それは店長が横領を働いたわけでもな
んでもなくて、例のデジカメキットはちゃんと仕事で使ってるから税法上は問題
無いのだ。
ペンタックスオート110にセットして、商品はもちろん、味噌の製造工程と
か撮影して野沢麹店のホームページに載っけてるってえわけ。
なりは小さいけど、レンズ性能は本格的だから写りはばっちり!
望遠とか広角とかいろんなレンズを付け替えて、お仕事以外でも楽しく使わせて
もらってま〜す。(なんてったって、システム一眼レフだかんね。記録媒体がフ
ィルムからCCDに代わっただけであって、カメラを操る快感は普遍なのだ〜)
そう、そう、そのホームページを開設するに当たり、巨匠にはずいぶんと世話に
なったので、いまさら「味噌の消費量を抑えてくれ〜」とは言えない、辛い立場
の お丸山店長ではある。
おまけに、「ホームページ作ったら、きっとどんどん注文来るよー!」とか言わ
れたのに、インターネットによる注文は2ヶ月経ってまだ1件も入って無い。
(じぇーんじぇん、話しが違うじゃねーかよー! > 巨匠 )

だが、モノは考え様である。
もう今更出番などあるまい、行く行くはあの「世界遺産」にでも登録されて、人
類が造り得た110カメラの至宝として後世に語り継がれるのが関の山か、くら
いに思ってたペンタ110が、発売後20年近く経った現在でもデジカメとして
立派に活躍できているのだから、これはこれで、めでたし、めでたしと言えるの
ではなかろうか。

                                                         おしまい

注)この小説に登場する人物および団体等は架空のものです。
    誰かに似てる〜とか、いや、あれは絶対あのヒトに違いないとか
    想像するのは勝手ですが、あくまでもフィクションですので
    あそこは事実と違うんじゃない、とか、それからどうなったの〜
    などと質問したりしないように!