Posted: Tue, 7 Apr 1998 10:56:14 +0900
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私の自己満足で始めたこのコーナーも、今回でとうとう10回目を迎えて
しまいました。
そこで、記念すべき第10話を飾る栄光のカメラは.....

  うーむ、やはりこれしかありますまい.... 

  「頼霞絵夢讃....らいかえむさん」

  実は私、M3のことを書くのは“思カメ”の最終回と決めていました。
なぜなら、回の途中でM3を書いてしまったらそのあと他のカメラのこと
は全く書く気がしなくなるだろう、って思い込んでいましたから。
(それほど素晴らしいカメラなんですよ、ライカM3て。)
一時は「この世には二種類のカメラしか存在しない。ライカとそれ以外の
カメラだ。」って本気で信じ込んでいた時期があったくらいです。
(これなどは、かの麻原チョートクによる洗脳と悪性ウィルス感染とによ
  るダブルパンチだったのでしょう。)
でも、“思カメ”の回を重ねるに連れ“それ以外”のカメラの本当の良さ
を再認識することができ、以前よりは冷静にライカというカメラも見るこ
とができる様になってきました。(直接のきっかけは、昨秋あるカメラと
出会ったことが大きく影響してるんですが、このカメラについては次回の
“思カメ”No.11でお話することにしますネ。)
それで、おめでたい10回記念号でなら書いてもいいかな、と思い直したわ
けなのです。

でわ、「思カメ」“ライカM3の巻”
気が変わらないうちに、さっそく突入することにいたします。


       野沢@古カメ党の
            “思い入れのカメラ”コーナーNo.10 

<一眼レフだけがカメラじゃない!>

一眼レフの撮影用レンズには「フィルムに画像を結ばせる」という写真
用レンズ本来の仕事以外にも幾つかの重要な役割が担わされています。
それは「ピント合わせ」や「フレーミング」等といった役目です。
まっ、だから一眼レフなわけですが、このフィルムに写るはずの像をその
まま目で見て確認することができる点こそが、一眼レフカメラの最大の利
点であることは明白です。
私は長い間、「一眼レフこそ、ファインダーで見たままが写せる最高のカ
メラ形式なんだ」と信じて疑わないで来ました。
この視点から他形式のカメラを見てしまうと、
「ライカなどの距離計連動式カメラなんて、焦点を合わせる距離計のため
だけに手間暇惜しまず、コストたっぷり掛け放題の、単に高価で古臭いカ
メラ」としか映らなくなるし、
ローライフレックスなどの二眼レフに至っては、
「ご丁寧にもファインダー用にレンズをもう一つ取り付けて、これじゃカ
メラの二段重ねさ。なんと贅沢な!」
「そのくせ中身はほとんど空気なんだから、金とスペースの無駄使いの極
致!」
と、こうなってしまうわけです。
事実、私はそう思い込んでずっと一眼レフを愛用して来ました。ニコンF
の期待を裏切らない信頼感にも充分満足していたからです。(まあ、昔は
ライカやローライなんて今より随分高価で、おいそれとは手が出なかった
というのが真相かも知れません。「ライカ一台、家一軒」と言われた時代
があったそうですからね。←戦前)

ところが、先頃の円高のお陰もあってライカ、ローライ等がぐっと身近
に感じられ実際に使うことができるようになってから、そんな思い込みは
徐々に薄れていきました。
ドイツ機械工業華やかなりし時代に作られた“精密機械としての出来栄え
自体の素晴らしさ”もありますが、距離計連動式や二眼レフ式カメラには
一眼レフカメラには無い“カメラとしての潔癖さ”が感じられたからです。
それを一言で表すなら
「大事な撮影用レンズに二足のわらじは履かせない!」
つまり、
「フィルムに画像を結ばせるレンズにはそのことのみに専念させる。その
ためには、焦点合わせやフレーミングといった他の仕事は多少コストが掛
かっても別のデバイスに任せる。」ということです。
なんと自然で明快な、潔いコンセプトなのでしょう。
(喩えは適切でないかもしれませんけど、これって自動車でも言えること
じゃないかな。操舵と駆動の両方を前輪で行なうFF車より、舵取りは前
輪、動力伝達は後輪が受け持つFR車の方が、原理的にも実際の走りにお
いても実に自然ですよね。)
こういった視点からカメラを見てしまうと、先ほどとは逆に一眼レフ形式
の不合理性が浮き彫りにされてきます。
ミラーが動くための空間やペンタプリズム等のために、ミラーショックや
カメラ本体の体積や重量がかさむことはもちろんですが、撮影用レンズに
とってはフィルムとの間にミラーが入るので、レンズのバックフォーカス
を長くとらなくてはいけない等といった制約が生じたりします。
たゆみない技術開発の成果(ペリクルミラーやレトロフォーカスの発明な
ど)によって、そのようなデメリットは徐々に消されてはきましたが、原
理的にはもちろんゼロにすることは不可能です。
万能カメラと謳われる一眼レフではありますが、万能を目指すがゆえに全
てにおいて最高であるというわけには行かず、やはり苦手なところはある、
ということだろうと思います。
つまり、時代遅れだと思われていたライカに代表される距離計連動式カ
メラにも、一眼レフには無い持ち味があることに気付いたのです。


<M3の魅力>

これからライカM3の魅力をたっぷり書いていくわけですが、以前どこ
かで言ったようにM型ウィルスは非常に強力ですから、免疫のない方はそ
れなりの覚悟をして読んで下さいネ。
尚、めでたく感染した際には、当方できる限りのケアーに応じますので、
大船に乗ったつもりで居ていいです。(船酔いに関しては関知しませんが、
ライカ海の果てまで御伴しちゃいます。底無しのライカ沼だったりし
て....)
ライカM3の魅力をひとことで言うのは土台無理というものです。(す
べてが素敵!って言っちゃえばそれまでですけど......)
まず、カメラである以前に精密機械としての品性とでもいいましょうか、
そんな気品までが滲み出ているんです。
やはりなんと言っても丁寧な仕上げが目を引きます。きめ細かなクローム
のメッキにはしっとりとした厚みさえ感じられますし、プレスや削り出し
の加工部からは確かな技術力が伝わって来ます。
M3を手にとってみると、予想以上にずしりと来るその重さにちょっと驚
くことでしょう。部品がぎっしり詰まっている、といった感じです。
おそらく一つずつ丁寧に加工した部品を熟練した手つきで、これまた丁寧
に一個ずつ組み上げたであろうことは、先程述べた丁寧な外部の仕上げか
らも容易に想像出来ます。
私は、これらが合わさって機械としての気品が漂うのだと信じています。
まあM3のデザインに関しては、好き嫌いで言えばあまり良いとは思って
ません。ペンタ部のモッコリが無いのは当然としても、バルナック型に比
べ軍艦部がすっきりし過ぎて(軍艦部と言うより、まるで空母の甲板みた
い)、写真機としてのおもしろさがやや希薄だからですが、それはそれで
バルナック型とは一味違って、シンプルながらも重厚な雰囲気が漂ってく
るところは凄い、さすがだなって感服させられます。
次に、M3最大の魔力と言われているファインダーを覗いてみることに
しましょう。これが噂の“魔のファインダー”です。
誰だってこいつを覗いちまったら、もうこれ以上のファインダーは他に存
在しないんだろうなって納得してしまうことでしょう。
像自体もクリヤーで申し分ありませんが、視野にピタッと貼りついたよう
に見えるブライトフレームは、どこに向けても明るくくっきりと撮影範囲
を表示してくれます。しかもパララックスが正確に自動補正されますから
安心してフレーミングできます。
フレーム式ファインダーというのは、当然フレームの外側まで見えます。
つまり、フィルムに写し込む範囲外まで見渡せることによって気持ちに余
裕というか安心感のようなもが生まれます。(これはスナップ写真を撮る
際には極めて重要なアドバンテージとなります。)
一眼レフのファインダーというのは、この前オリンパスOM-1のところで
も“視聴者参加型”と書いたのですが、特に倍率が高い一眼レフの場合は
覗いているだけでとてもドラマチックな気分になり、ファインダー画面の
中に自分も引き込まれていっちゃう恐れがあります(ライブ感覚とでも申
せましょうか)。もうシャッター押すのを忘れちゃうみたいなアレです。
一方、写る範囲がフレームによって示され、且つ範囲外も同時に見ること
が出来るM3のようなファインダーなら客観的に被写体と向き合える気が
します。(のめり込むことなく冷静でいられるわけです。)
そのうえピント合わせが抜群にやり易いのです。
私は小学校6年生からずうっと一眼レフを使って来ましたから、レンジフ
ァインダー式によるピント合わせには当初からある種の戸惑いのようなも
のがありました。
実を言うと、学生時代からはライツミノルタCLも使ってましたが、初め
てのレンジファインダー機で慣れてなかったということもあり、小さな距
離計像を合致させてピントを合わせるのが面倒臭くて、これなら一眼レフ
の方が早い!と決め付けていたのでした。
ところが、M3を使ってみて初めて自分の浅はかさに気付いたのです。
M3の距離計像はCLよりずっと大きく、且つコントラストがありくっき
りとして二重像が実に合わせ易いのです。
一眼レフの場合、ピントリングを行ったり来たりさせて最良のピント位置
まで追い込むといった操作をしますが、M3の二重像合致式ではこれが一
発で決まります。
近ごろ、歳のせいか視力の衰えを感じ、一眼レフのファインダースクリー
ン上でのピント合わせに自信がなくなって来てましたから、素早く確実に
ピントが合ったと確信できるM3の距離計は精神衛生上まことに宜しゅう
御座います。
M3ファインダーの魅力として、一眼レフには付き物のブラックアウトが
ない点も忘れるわけにはいきません。
シャッターが開いてる瞬間も被写体を見ていられるので、相手が目を瞑っ
ちまったのかそれともばっちり撮れたのかといった判断がし易いわけ。
これがまた精神衛生上まことに好ましいんですよ。
続いて、巻揚げレバーを操作してみましょう。これが実にしっとりとし
てざらつきなど全く感じないスムーズなフィーリングなのです。
そして、人差し指がごく自然にシャッターボタンに掛かり、そのまま軽く
押し込んでいくと、
「コトリッ」
まあー、なんと上品で静かな音色でしょう(もちろんショックは皆無)。
もうこれを聞いただけでウットリしてしまうです。
しかも、シャッターボタンの押し心地が誠に素晴らしい。重過ぎず軽すぎ
ず、長すぎず短すぎず、他では味わったことのない絶妙のストローク感と
いうやつです。
スローシャッターがまたいいんですわ。
1秒でやってみますね。
「コッ・・・ットリッ。シンシンシン・・・・。」
(後半の「シンシン」はスローガバナーの残音でしょうか。)
純然たる機械仕掛けでありながらメカっぽさなど微塵も感じさせないばか
りか、まるで生きているかの如く事後の余韻さえ漂わす......

―――ここからは色収差が入ります―――

「あん、離れちゃいやっ。このままでいたいの・・・・・・」
すぐに起き上がろうとする伸一にこうつぶやくと、凛子は再び心地よい余
韻の淵に身を沈めて行くのであった。

―――色収差除去―――

これまで述べてきたように、M3は精密光学機器としての出来栄えがあ
まりにもすばらしいので、本来写真を撮るための道具にすぎないにもかか
わらずついついその操作感を味わいたいがためについでに写真も撮る、と
いった愚行を犯し易い。これがM3の最大の欠点であると言えなくもない
です。これにはほんと困ってしまいます。
でも、ライツがM3造ってた頃の時代背景を考慮するとこれは無理もない
のかなって思います。なにしろ、どんなに高くったって最高のモノさえ造
れば売れてた時代なのですから、工程数を減らしたり材料をケチったりな
どという省コスト意識は社内に存在しなかったというのを何かで読んだこ
とがあります。
例のマイスターと呼ばれる頑固一徹で職人気質の固まりのような人達が、
これは写真を撮るための道具だなんて意識しないで、それこそ自分達の作
品でも造るつもりで精魂込めて造ってたのかも知れません。じゃなかった
ら、あんな工芸品のようなカメラは絶対に出来っこない!
だから、ユーザーが写真撮ることを忘れてうっとりとしてしまうのも仕方
のないこと、って自分の病気を棚に上げて書いてしまう私です。

  M3の魅力はとても1回では書き尽くせそうにありません。
これ以外にもレンズやアクセサリーの話とか、気になる購入方法とかいろ
いろ書かなきゃいけないわけで、この分で行くと5、6回は続くことにな
るんでしょうかねえ。(先のことはまだ考えてなかったゾっと。なんなら
いっそのこと、少しずつ小出しにして毎日やってもいいんだけど、まあ、
興味がない人には迷惑だったりすると悪いので、次回で完結できる様に努
力してみるつもりです。)

とりあえず今回はここまでにしときます。
皆様のご意見御感想をお待ちしています。

でわ。


  野 沢 昌 一
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