Posted: Sun, 17 May 1998 18:07:42 +0900 X-ML-Name: Canopus X-Mail-Count: 04752 Lines: 244 野沢@お丸山店です。 杉山君からの巡礼参加表明に気を良くした私は“思カメ”第11話を怒涛の 勢いで書き上げた.....と。 今回取り上げるカメラは、前回の“思カメ”の冒頭でもちらっと書いたよう に「M3を語ったあとではもう他のカメラを書くのは無理かもしんない」とま で思い込んでいて、完全に“M3いのち”状態だったわたしに 「そんなに視野を狭めてどうすんの?肩の力を抜いてもっと楽にカメラと向き 合ったら?」 と言ってくれて(まあ、カメラが声を出して喋ったわけではないのですが)、 この世にはM3以外にも素晴らしいカメラがいっぱいあるってことを再認識す る切っ掛けを作ってくれたカメラなのよ(この点では感謝してます)。 もし、このカメラに出会わなかったら、わたしはあのまま「カメラはM3だ けあればいい」とばかりに他のカメラは全部売り払ってこの忌まわしいカメラ 地獄から抜け出すことが出来たかも分からないですし、或はもっと恐ろしいラ イカ地獄に嵌っていたかもしんないわけで、怨んでいいのか感謝してよいのか よく分からなくなってきたところで早速突入しちゃいまーす。 野沢@古カメ党の “思い入れのカメラ”コーナーNo.11 <現代版和製ライカM2ズミクロン35ミリ付き> 50ミリレンズを付けて使うならM3がベスト、という話は前回書きました。 「じゃあ、35ミリなら?」というじつに素朴な疑問をライカM型ウィルス感染 者が抱いた時、それは病状が順調に進行して悪化の一途を辿ったことを意味し ます。 「35ミリ使うなら、M2に決まってるべしー。レンズは定番ズミクロンだぎゃ ー(注1)」というわけで、中古カメラ屋の広告などを調べだすんですが、M 2に35ミリズミクロンのセットとなると結構なお値段(ニコンF5が楽に買え ちゃうくらい)ですから「発作的に買っちゃいました」という具合には参りま せん。 それに、M3に続いてM2にまで手を出すということは、自ら底無しライカ沼 の淵に飛び込んで行くも同然。そして、そのままずるずると深みに嵌り込みM 4、M5、M6まで行くは必定(ま、財力が続けば.....ですが)。 が、幸いにもここで「ライカM型はM3だけで充分」と理性が働いた、という より単にお金が無かっただけかもしんないけど、ライカ病の特効薬として有名 な極道虫@練馬薬局さん(注2)の処方箋通り「カード破産の念仏」を必死に 唱えることで、どうにか発作だけは抑えていられたわけです。 それからしばらくたったある日、何気なく雑誌読んでたらあるカメラの名が目 に止まったんですわ。 「ああこれね。別にどうってこと………………うーっ、あるっ!」 「なーんだ、そういう手があったのか!」 と、名案がひらめいたわけなんですよ。 早速、例の野沢文庫カメラカタログ資料室(別名:古―いお宝型録の宝庫)か ら引っ張り出してきたのが「コニカ・ヘキサー」新発売当時のカタログ。 4、 5年前、これとは別のカメラに興味があってカメラ屋覗いた時、ついでに 貰っておいただけなんですけどね。(今、昔のニコンFのカタログなどは何千 円もするらしいですよ。だからというわけではありませんが、こうして後にな って役立つこともあるからカタログは粗末にできませんて。) じつは、私、ヘキサーについてはそれまで良い印象は抱いてなかったのです。 レンズにはかなり力入ってるみたいだけど他のスペックは平凡そのもので、大 きさだって全然コンパクトではないし、クラシカルな外観が妙にわざとらしく 感じてたので、 「こんなカメラ、オレなら絶対買わんわい。」と決め付けてさえいました。 (あの御さわり放題やり放題のヨドバシで触れたことさえありません。) まあ、当時の私としては無理もないことです。 ところが、前に貰ってあったヘキサーのカタログを眺めるうちに 「このカメラこそライカM2ズミクロン35ミリ付きの現代版に違いない!」 と確信するに至ったのです。それは昨年の秋のことでした。 「よし、買おう!」 こう決めてからは早かったっすよ。4、5日後にはもう私の手元にヘキサーが ありましたからね。(現物を確かめず直感だけを頼りに買ってしまうのは、例 の個人輸入で身に付けた私の得意ワザか?) わたしにしては珍しく新品購入です。 中古党を名乗ってる手前これはまずいんじゃないかって? じつはですね、ヘキサーって結構人気があるらしくて中古と新品の価格差が それほど大きくなかったのがその理由です。中古で安く買うのが中古道の基本 ですからね。だから、この場合は新品でもよいのです。 (注1) :M3フリークなら、M3にメガネ付き35ミリレンズを装着する 方が粋であり且つ、定石であると異論があるに違いない。 (注2) :「極道虫」とは、「極道石」と書くこともある。 “やくざむし”または“薬剤師”の意。 <それまで気付かなかったヘキサーの魅力> コニカ・ヘキサーはライツのズミクロンを意識して設計された焦点距離35 ミリのヘキサーレンズがウリのカメラである、と言われているように元々その レンズには定評があったわけですけど、今のカメラは皆よく写ると決め込んで いる私にとって、それはどうでもよいことって言うか、まあ悪い気はしない程 度のことで、それより、真面目に造られたレンジファインダー式カメラという ところに魅力を感じてしまったのです。 普通のコンパクトカメラは枠が見にくいアルバタ式ファインダーが一般的で すが、ヘキサーのファインダーはライカM型と同じ「採光式ブライトフレーム」 で且つ「パララックス自動補正付き」。さすがに見え味までライカ同じとは参 りませんが値段の差を考えたら立派なもんです。CLやCLEにならそれほど ひけを取らない見え具合だと申せます。 丁度、ライカM3で知った距離計連動式カメラの素晴らしさ・気持ち良さにど っぷり浸かってた頃でしたから、ヘキサーはライカ以外で唯一実用的なファイ ンダーを装備した現行機種ということで私を魅了したのは当然の事だったわけ です。 ところで、前回の“思カメ”で書き忘れたことがひとつあります。それはレンジファ インダーの利点についてです。 普通、一眼レフは被写界深度をファインダーで見て確認できるのが便利である と思われているわけですが、見方を変えれば、これはピントを合わせたところ 以外はボケてしまってよくわからないということです。その点、距離計連動機 のパンフォーカスなファインダーなら手前から無限遠まで全てがはっきり見え るわけですから、特にスナップ写真などには最適なカメラであると言えましょ う。目的によっては、一眼レフが最高のカメラではないのです。 さて、いつもならばこのヘキサーを“プアマンズ・ライカM2ズミクロン35 ミリ付き”とか言っちゃうのですけど今回はいささか事情が違います。 確かに、リッチマンズに比べれば値段はべらぼうに安い(ヘキサーの実売価格 は、M2ボディの3分の1。ズミクロンレンズ単体の半額以下。トータルでは 5分の1以下で買える!)ですし、昔のMライカのような手にずしりとくる高 級感は全く感じられません(プラスチック製だから当り前)。シャッターボタ ンや速度ダイヤルなどの操作フィーリングは月とスッポン。さすが格段に安い だけのことはある、ってか? が、しかし..... 本家に負けない、いやそれ以上の機能を備えているのですよヘキサーは。 AEにオートフォーカス、巻揚げまで自動です。 これじゃ“プアマンズM2”どころか、フルオートで行けるぶん機能的にはM 2をはるかに超えちゃってます。 これはですね、実際に使用してみると実感するんだけども、露出を計ったり ピント合わせをしなくてよいのでライカの何倍も被写体に集中できるわけです よ。(そこで、今後はヘキサーを“プアマンズM2ウルトラスーパー”と呼ぶ ことにいたします。) これだけ高機能なのにもかかわらず、M3と一緒に使っても違和感を全く感 じさせないってのは、やはりヘキサーが優れたレンジファインダー機であるこ との証だと思います。(ちなみに、横幅はM3とほぼ同じです。これは非常に 重要なことですよ、使い易い大きさって見地からは。あんまりちっこ過ぎるの は携帯性は良いけど使う際には問題がありますからね。) とにかく、このカメラの良さはライカの素晴らしさ、言葉を代えて言うなら “レンジファインダー機の気持ち良さ”といものを知っていなけりゃ理解でき ないざんす。 その意味では、私よりずっと以前からヘキサーを使用されておられる勝岡大 僧正や杉山上人は凄い眼力のひとだなーと改めて感心してしまった“門前の小 僧”でした。 <小西屋の良心> このヘキサーというカメラは、私から“35ミリズミクロン付きM2が欲しい” という物欲を捨てさせてくれたばかりでなく、M3の呪縛からも開放してくれ ました。 こういった素晴らしいカメラを発売してくれたコニカ株式会社に感謝して、 且つ、敬意を表してフィルムもコニカ製を使わなかったらバチが当たるっても んです。(ヘキサー購入前にストックしてしまった黄色や緑色の箱のフィルム を使い切ったら、次からは青い箱のフィルムを買おうと思います。) ところで、一般にヘキサーは高級コンパクトカメラに分類されてるようです が、このカテゴリーの他社機はすべてチタン外装されてますよね。 ところがヘキサーはチタンどころか真鍮ボディーでさえありません。 これは一体なぜでしょう。 わたしが思うに、ヘキサーは現代の真の実用カメラとして、“持つ喜び”よ りも“写す喜び”を満たすカメラを欲している真に写真を趣味としてる人達に ねらいを定めて開発されたからだとおもうんですよ。 そりゃ、よそのメーカーみたくチタンで出せばもっと売れるかもしんないし、 利益率も増えて会社は儲かる。でも、重厚な操作感とか風格などといったもの は実用カメラには無用。バンバン使うには軽量で頑丈なプラスチックボディー こそ相応しい。値段も安くできて消費者の負担も軽くできる。良心的なコニカ 開発陣はこのように判断したんでしょうね、きっと。 実際、新品・新同アレルギーのわたしが新品で買って平気で使えるのも、持 つ喜びとはまったく無縁のこのプラスチックボディーのお陰です。(じつをい うと重度の金属カメラ中毒症も併発してるもんんで、どんなに奇麗でもプラス チックカメラなら全く発情しないみたい。) ライカM3からヘキサーに持ち替えると、あまりの軽さに一瞬、手が混乱し て動揺を隠し切れませんが、暫く使っているとその“軽さ”が心地よく感じら れてきて、使うにはM3でさえ重過ぎると思ってる重カメ嫌いの私が振り回す には丁度良いかなって実感しちゃいます。 M3やニコンF5を引き合いに出すまでもなく、“持つ喜び”を備えた良いカ メラはどうしても重くなり稼働率が下がりますからね。 この辺のことまで充分考慮してヘキサーを生み出した小西屋ってのはやっぱ老 舗だけのことはありますよ。 チタンにしなかったもうひとつ理由は(これはちょっとかんぐり過ぎかも知 れませんけど)コニカは現在カメラも造ってますがフィルムメーカーでもある っていうこと。ヘキサーをチタン外装にしたら、15万とか20万円近くなっ ちゃうから、そうなると数はさばけないかもしんない。だったら、お手ごろ価 格でどんどん買ってもらって、フィルムもバンバン消費していただく方が得策 ですからね。(しかし、写真雑誌のコンテストなどを見てるとヘキサー使った 作品が結構入選してるん割には、フィルムもコニカってのは少なかったなあ。 この点ではコニカのねらいは見事にはずれた!やっぱり、ヘキサー専用フィル ムを発売しなければいかんですよ。) <ヘキサーの未来は> ま、そんなわけで、ヘキサーが良いカメラであることは充分お分かり頂けた と思いますが、ユーザーとしては2つほど注文があります。 まず、ちゃかちゃかとした如何にも安物っていう感じのあのシャッターボタン の感触はどうにかなりませんかねえ。 いかに実用重視のカメラとはいえ、一応高級コンパクト機に分類される値段の カメラなんですから、半押しとかで一番頻繁に使うシャッターボタンくらいは 価格に相応しいフィーリングにして頂かないと納得できません。(コンタック スT2は人造ルビーでしたっけ?しかし、ここで私が言いたいのは、宝石とか 金属とかボタンの材質の問題ではなくてストロークの感蝕のことですけど、普 通のコンパクトクラスでももっと良い感触のカメラはざらにありますからね。) 2番目の要望は、まあ、これはレンズシャッターでは機構上難しいことのよ うですが、どうにも低過ぎるシャッター最高速をなんとか上げてもらいたい。 現在の250分の1ではISO400のフィルムを使った場合、快晴の戸外で F22とかになっちゃってせっかくのレンズ性能を活かしきれませんよ。最速 2000分の1秒、せめて1000分の1秒は欲しいところです。 まあ、シャッター羽根を併用して間に合わせ的に1000分の1を切るとか、 昔のカメラにはよくあった額面1000分の1秒でも実際は500に限りなく 近いといういんちき最高速よりはずっと好感持てますけどー。 コニカは、昔からこういった数字を真面目に表記・申告する会社でしたよね。 たしか焦点距離57ミリとかいうレンズがあったなあ(こんなの、他のメーカ ーなら四捨五入して55ミリにしちゃってるでしょうに。)。 上記2つが、現在のヘキサーに対して改善してほしい項目です。 これらをクリヤーして且つ、ライカのような重厚さが備わったらもう言うこと 無いカメラなんだが…(あっ、これは言っちゃいけなかったのね。) んで、ここではヘキサーの後継機について書くんだった。 次期ヘキサーは是非レンズ交換式にして出して欲しい、とは世の多くの方々の 要望かもしれません。 しかし、それをやっちゃうとヘキサーの軽快感が半減しちゃうような気がして 私は素直に賛同はできません。ズーム付きというのもどうかと思います。 ヘキサーは単焦点レンズ固定式だから迷いが無くて潔いところが良いのですよ。 私なら、むしろ50ミリ標準付き、90ミリ望遠付きの各ヘキサーが発売され ることを希望しますね。 専用ボディーでドッカと腰を据えて(と言っても相変わらず軽いはずだから軽 快に動き廻ることができるが)撮るのが“ヘキサー流”と違いますか? そう、自分の眼の視角を撮影レンズの画角に合わせ、視神経を研ぎ澄ませて被写体に 向かうのです。(“おカメラ狂”に似合わぬ発言ではある。) そんな使い方がヘキサーには似合ってると思います。 最後にヘキサーの写り具合について一言感想を述べさせていただきます。 私は35ミリのズミクロンは持ってないし今はもう欲しいとは思わないので、 もちろん比較はできないし比べてもしょうがないのですが、評判に違わぬ良い レンズだと思います。 過去に使ったことがあるレンズで言うと、一眼レフのニッコール35ミリみた くシャープでガチッと力強く写るのではなくて、ライツミノルタCL用のMロ ッコール40ミリに近い繊細なシャープ感で柔らかな描写とでも言えるかな。 うーん。途中から一気に飛ばして書いて来たので疲れました。 {あと、ストロボ内臓ではないのでバッテリーが非常に長持ちするし、レリーズ不要 の長時間露出(タイム露出)が可能なのでヘキサーは星野写真にも適してるとか、い ろいろ書きたかったんだけども......} 今回の“思カメ”はここまでにしときます。 ご意見ご感想、質問などなんでも結構ですからお寄せ下さいネ。 じゃ、岑ハ惚。 野 沢 昌 一 野沢麹店お丸山店(のざわこうじてん おまるやまてん) TEL.FAX 028-686-5758 自宅TEL 028-686-2150 E-mail nozawa@mxb.meshnet.or.jp