Posted: Sun, 8 Feb 1998 18:34:43 +0900
X-ML-Name: Canopus
X-Mail-Count: 04281
Lines: 242

野沢@お丸山店です。

例のよって週末のMLは静かですね。
というわけで、その隙に突入してしまうことにします。


        野沢@古カメ党の
              “思い入れのカメラ”コーナーNo.8

過去7回の“思カメ”では、すべて一眼レフばかりを取り上げて参りました。
それもかなり古い機種ばかり.....
まっ、これ書いてる人間が古いですから仕方がないのかも知れません。
( # これを読んでくれてるカメラ好きの人も結構古い、というかカメラに
     対しては割と保守派が多いんじゃないでしょうか。)
それならば、というわけではないのですけど、98年になって2回目のこの
コーナーでは、初めて一眼レフ以外のカメラが登場します。
35ミリフルサイズコンパクトカメラの傑作中の傑作、オリンパスXAです。
とは言っても、これだって現在から見れば結構古い機種だったりするのです
けど、ほんの5年ほど前までは、私の“筆頭サブカメラ”というか、時には
メインカメラとして活躍してくれていたという実績があるので、個人的には、
それほど古いカメラというふうには感じてないのも事実なのです。
いったい、いつ頃発売されたのか?と思い、例によって資料を漁ってみると、
出て参りました当時のカタログが。(ほんと、物持ちがいいと言うのか、捨
てないでよくぞとっておいたものだと我ながら感心します、毎回。)
このカメラのデビューは1979年、といいますから既に20年近くも前の
ことになるんですが、その時の衝撃を私は今でもはっきりと覚えてまして、
生涯忘れることはないと信じてさえいるのです。
当時のコンパクトカメラは、ストロボ内臓、自動巻き上げ、オートフォーカ
スなどの機能を盛り込むことに一生懸命で、お世辞にもコンパクトとは呼べ
ないほど肥大化して来ました。まだ各機構の小型化の技術が確立される前で
したからね。(これらの機能をフル装備して尚且つ小型化した現代版正統派
コンパクトカメラの登場は、コニカの初代ビッグミニあたりまで待たなけれ
ばなりません。)
その様な時期に、XAはこれぞ真のコンパクト、って言える実に明快なコン
セプトのもと、カメラ好きには堪えられないスペックを引っさげて出現した
のです。
何と言っても、ケースレス、キャップレスの思想が鮮烈でした。
それまでのカメラは、撮影しない時はケースに入れて持ち歩くか、或はケー
スから出して裸で持ち歩くにしても、撮影の度にレンズキャップを外すのが
通例で、キャップを外し忘れたり紛失したりしないか常に心配でした。
その点、XAならスライド式バリアーのおかげでケースもキャップも必要あ
りません。カタログで「カメラカプセル」というコピーを使ってアピールし
てる通り、バリアを閉めるとレンズやファインダーといった指紋や埃を付け
たくない大事な部分はすっぽり隠れちゃいますから、ケースも要らずスルッ
とそのままポケットへ納めることができます。当時としてはじつに画期的だ
ったこの発想は、現在ではごく当り前になっていますが、XAはこの点にお
いて、まさに現代のコンパクトカメラのパイオニアと言えるのです。
次に、使わない時には外しておける専用ストロボというのも、当時としては
コンパクトに徹する合理的な考え方として、私が気に入っている点のひとつ
です(私は今でも自然光で撮るのが好きなのでストロボには無頓着です)。
また、35ミリF2.8という、コンパクトカメラにしては比較的大口径なレ
ンズにも開発者のこだわりを感じます。
F2.8で何が大口径かと思われるでしょうが、ストロボが内臓される様にな
ってコンパクトカメラのレンズは急に暗くなりました。このことは、時を経
るにしたがって一層顕著になって行きます。現在では、ズームはいうに及ば
ず単焦点でもF3.5が主流で、F2.8というのは高級機か極一部の機種に
しか採用されてないですからね。
それから、絞り優先AE方式の採用と連動距離計を装備。
この2点は、ビギナーにはちと煩わしいかも知れませんが、マニアにとって
は正に垂涎もののスペックでした。
コンパクトカメラでは、当時から現在に至るまでプログラムAEが当り前に
なっていますが、XAには絞り優先AE方式が採用されていて、絞りの効果
を駆使できる様に配慮されています。
ピント合わせについては、XAが発売された79年頃のAF機は、AFとは
言ってもオートゾーンフォーカスと呼んだ方が正しい様なカメラが多かった
と聞いています。そんな荒っぽいAFより、このXAの連動距離計のほうが
よほど正確にピント合わせが可能です。
「AFじゃなくたっていいじゃない。絞りくらいは自分で設定しなさいよ。
別に連写するわけじゃないんだからワインダー機能は不要でしょ。ストロボ
だって常に必要なわけじゃないんだしー。何もかもカメラ任せにしないで操
作する楽しみがなくっちゃ。その上で、超小型なら最高!」とでも言ってる
ようなこのカメラのコンセプトは、じつに素晴らしい!と共感できるのです。

そのコンセプトを素直に、そして見事に具現化したデザインがこれまた素晴
らしいかった。
目から鱗が、と言うかまさに心が洗われる様でした。
前述の機能を詰め込んだ割にはとても小さくまとまったXAのボディは、そ
れまで一度も見たことがない斬新な形をしていました。
スライド式バリアを閉じた状態ではちょっとカメラとは思えません。
(かつて、XAを“真っ黒いコロッケ”と評したのは、かの源平聖人でした。)
このふっくらと卵型に膨らんだバリアの中には、いったい何が隠されている
のだろう?、といった期待感で胸をワクワクさせてくれます。そして、デザ
イン上のアクセントとして刻まれた縦ギザの指掛かりに軽く指を当ててバリ
アを開けて行くと、ファインダーの対物レンズと撮影用レンズが顔を出して、
俄然、カメラであることを自己主張し始めます。(距離目盛りやASA感度
指標等が一斉に現れるのでウキウキして来ちゃいます。)
「なーるほど、こうなってたのかあ。」
最初からカメラであることは分かっていても、思わず、こう呟いてしまうく
らい見事な変身振りです。
このように、オリンパスXAのデザインは遊び心満点と言えますが、機能が
形になっているので無駄な部分はなにひとつありません。
わたしはXAを観るたび、
「デザインとは機能である」
この言葉を思い浮かべてしまいます。
外観だけを小手先でちょこちょこっとデザインしただけのカメラ、すなわち
オリンパスO-プロダクトに代表されるアパレルデザインの一連のカメラ達。
これらは単に外観デザインの遊びに過ぎなかった、ということを再認識させ
てくれるのです。
また、プラスチック材料の使い方も見事だ、と言えます。
安っぽさをまったく感じさせないばかりか、“プラスチック製カメラの機能
美”とも言える風格さえ漂わせていると思います。
これは、表面だけを金属風に見せ掛けたプラスチック製カメラが多いなか、
XAがプラスチックでしか表現できない独自のデザインを追求したカメラで
あるからです。
「カメラは金属製に限る」などと頑なに思い続けている私ではありますが、
唯一XAだけは例外であると思っています。
(表面の仕上げが縮緬塗装風なのも泣かせます。これがじつに渋い!)

これまで、XAのコンセプトの素晴らしさとそれを具現化したデザインの良
さを書いて来ましたが、「肝心の写り具合はどうなんじゃい?」と気になっ
て仕方が無い読者もいらっしゃることでしょう。
(特に、“コンパクトカメラの達人”=赤松君などはヤキモキしているに違
  いありませんね、写りを重視するひとだから。)

では、“写り”を含めたXAの使い心地についてレポートしたいと思います。
冒頭でも書きましたが、私は、このカメラをかなり気に入ってよく使ってま
した。それは、タバコの箱より一回り大きいだけのサイズとケースレスのボ
ディがとても携帯し易かったから、というのが最大の理由です。
まず、「コンパクトカメラとは、かくありなむ。」です。
「たとえ、どんなに写りが素晴らしくても、ポケットにすんなり納まり常時
携帯できなければ真のコンパクトカメラとは呼べない。」とういうのが私の
持論でもあるからです。
で、注目の写り具合に関しては、一言で言ってしまえば「コンパクトにして
は問題無く良く写る」と、自信を持って申せます。
“写り具合”とひとくちに言っても、それにはレンズ性能以外にも露出、ブ
レ、 ピント等いくつもの要素が関係して来るのは言うまでもないことです。
私は数年前、カメラはXAだけを持参してアメリカ旅行の記念写真を撮って
きたほどです。使用フィルムはベルビアでしたが露出が外れたコマはほとん
ど無かったですから、露光精度はかなり信頼できます。
おまけに、XAはシャッター切る際にブレ難いのです。
まっ黒なボディに惟一個所オレンジ色がアクセントになっていますが、この
ボタンというよりタッチスイッチとでも呼んだほうが適切ともいえる“感圧
式シャッターボタン”は、軽く押すだけで直ぐにシャッターが切れてしまう
ので、“ブレる前に撮影完了”といった感じです。
絞り優先のオートですけど、その時のシャッタースピードがファインダー内
で容易に確認できますから、これも手ブレ防止に役立っています。
ピント合わせに関しては、距離計像は小さいけれどコントラストはそこそこ
あるので合わせづらいと感じたことはありません。
まっ、XAを使ってた頃はまだM3のファインダーなんて知る前のことです
し、そもそもM3と比べること自体ナンセンスだとも思いますので、あしか
らず。サイズと値段の割には、良く出来たレンジファインダーだと言えるで
しょう。
次に、肝心のレンズの描写性を語る前にこのレンズの素性について触れさせ
てもらいます。
「Fズイコー  F2.8 f=35ミリ 5群6枚構成」
とカタログに書いてありますが、ガラスを6枚も使ってるのはこのクラスの
コンパクトカメラとしては異例と言えます(普通は4枚くらい)。
それだけ写りにこだわった、と申せましょうが、理由はどうもそれだけでは
ないようです。このレンズの構成図を見ると、ボディからのレンズの出っ張
りを抑えるためにかなり苦心して設計されたことが想像できるからです。
(これは、一眼レフ用レンズがミラーのスペースを確保するために長いバッ
  クフォーカスを必要とするのとは逆の苦労ですね。)
この点、最近のコンパクトカメラはレンズを沈胴式にして解決してるわけで
す。
また、インナーフォカスと言って、ピント合わせでレンズが前に繰り出さな
い方式を採用するなど、コンパクト化への工夫が随所に見られます。
それらによる無理が生じたのかどうかわかりませんが、絞り開放時の画面
の周辺部で少し流れた様に写る部分が見られます。しかし、これは絞れば問
題ありませんし、中心部は絞り開放から充分シャープな描写です。
10万円もする高級コンパクト機なら別ですけど、普通のコンパクトカメラ
でこれだけ写れば申し分ない、と言いたいところです。
まあ、ひとつだけ文句を言わせて貰うならば、最短撮影距離が85センチ、
という点でしょうか。近くまで寄れるに超したことはないんだけども、せめ
て50センチくらいは欲しかったです。これって旅カメラには重要なんです
よね、テーブル上の料理をアップで撮ったりとか......

わたしのお気に入りだったオリンパスXAはヒット商品となり、いくつかの
違ったタイプが追加されてXAシリーズを形成しました。
ざっと紹介しておきましょう。

[XA2]:
XAの簡単操作版といえるモデルで、レンズは4群4枚構成のF3.5にスペ
ックダウンされているが、ピントは3点ゾーンフォーカス、プログラムAE
搭載で、初心者にはむしろ使い易いカメラと言える。
81年のグッドデザイン大賞受賞。
シリーズ中唯一、白、赤、青のカラーバージョンも作られた。

[XA1]:
電池不要のセレン式プログラムシャッター搭載のお手軽簡単モデル。
ピント合わせも不要(固定焦点)なので、構図を決めてシャッターボタンを
押すだけ。35ミリフルサイズだが、まるで昔のペンEEがXAの形で生ま
れ変わったみたいな内容。
電池を使用しないので、フェザータッチの感圧式シャッターボタンではなく、
オリンパスペンEEを彷彿させるロングストロークボタンを採用している。

[XA3]:
XA2との違いがよくわからん。
ひょっとして、DXコード対応になっただけだったりして?

[XA4]:
じつは、私が最も好みなのがこれ。
理由は、シリーズ中唯一28ミリF3.5の広角レンズ搭載モデルだから。
最短30センチまで寄れる点も魅力。
スナップ用のサブカメラの発想で作られたらしい。
元祖XAにあった周辺画像の流れはこのモデルでは気にならない。

XAシリーズには、コンパクトカメラにしては珍しくアクセサリーが豊富に
揃えてありました。
まず、専用ストロボが4種(ガイドナンバー9と11と16、それにリチウ
ム仕様まであった)、ケースがソウトとハード、ストラップなんか5種類く
らい出てました。あと、XA4専用だけどマクロフラッシュアダプターとい
う接写時にストロボ光を拡散させるアクセサリーもありました。

今回紹介したオリンパスXAは、現代のAFフルオート機と比べてしまうと、
機能の上では些か古臭い内容であることは否めません。XA大好き人間の私
でさえ最近は、コンパクトカメラではその便利さからプアマンズTC-1ばか
り使ってます。
しかし、そのデザインの先進性とその後のカメラに及ぼした影響の大きさか
ら、XAはあのローライ35と並んでカメラ史上に永遠に残るであろうこと
は間違いありません。

オリンパスというメーカーはこれまで、カメラ好きをアッといわせるような
ド偉いことを度々やってくれました。
それは、単に他のメーカーがやらない事、目新しい事、といった簡単な言葉
で片付けられることではなく、「我々が望んでいたのはこれだったんだ」っ
て思わせるに十分な、35ミリカメラの本質を見事に突いたコンパクトな製
品の発売でした。
OM-1、今回取り上げたXA、最近のミュー2しかりです。
その時々のカメラ界の潮流が誤った方向(肥大化)に向かいそうになると、
オリンパスは軌道修正するためにさっそうと現れました。そして、疾風のよ
うに去っていった、というよりも、また新たな潮流が押し寄せて来て、つい
には“カメラ界は世紀末”などと言われて久しいのが現在の状況です。
こんな難しい局面でも、再び、オリンパスは救世主となり得るのだろうか?
それとも、デジカメの分野に次の新天地を求めて腰を据えてしまうのか?
最近オリンパスのデジカメへの力の入れ方を見ていると、なんだかOMシリ
ーズの将来が心配になって来ちゃいます。
# まさか、このまま終わっちゃうってことはないですよねえ?
  # それじゃ余りにも寂しすぎるゾ、オリンパス!って
銀塩派のOMファンのひとりとして、今年こそOM5の登場を期待して止み
ません。

御静読、ありがとうございました。
ご意見、御感想をお待ちしています。
では。


   野 沢 昌 一
   野沢麹店お丸山店(のざわこうじてん おまるやまてん)
   TEL.FAX  028-686-5758   自宅TEL  028-686-2150
   E-mail  nozawa@mxb.meshnet.or.jp

© Copyright 1998, Shoichi Nozawa