皆既日食　トルコ編

その5　日食だ！の巻

その4から続く

８月１１日（水） ６日目

今日は時間に余裕がある。皆既日食は午後だし観測地までは４０分程度で到着できる。出発は９：００だ。

観測地のハフィックには９：４０に到着した。我々２名は道具も下ろさず、空身で観測地(写真１５）をブラブラした。昨日、目星をつけたモスクまで下見に行こうとゆっくり出発した。ロケハンのカメラとしてＦ５だけを持った。歩き始めて１０分もしないうちに到着。新旧２つのモスクが建っている。方角から新しいモスクにしようと考えた。

その辺をウロウロしていると、近所の住人が集まってくる。皆も皆既日食の事は知っているのだ。特に子供の数が多い。そのうち大人が自家製のアイラン（ヨーグルト飲料で酸味がある）をコップに入れて持ってきた。言葉は通じないが、これを飲めと言っているのが解かる。折角の好意なので遠慮するのも悪いと飲んだ。すぐにもう一杯飲めと注いでくれる。私は結局２杯飲んでしまった。

今度は古いモスク(写真１６）に登らないか、と誘っている。これは珍しい体験なので付いて行くと、ものすごく狭い螺旋階段で登って行くのだ。ところどころに明かり取りの窓があるが足元は全くの暗闇で手探りで登って行く。どうも部分的に壊れている所や、鳥の巣になっていたらしい場所があったりして、埃だらけになりながらようやく登った。モスクの塔の外に出ると手すりがあって一周できる。とは言ってもすごく狭い。なおちょっと傾いていている。ピサの斜塔ほどではないけど恐いもんだ。数枚シャッターを切ってそそくさと降りた。

そのうち家を見ろ、と言う。こちらもロケハンは済んだのでノコノコついて行くと、外部は石を積み上げ、内部を木で組み上げた古い家に案内された。いくつかの英単語を組み合わせてあれこれ聞くと、どうも３００年以上使っている家だと言う。てっぺんに明かり取りの小さな天窓がある。そこから太陽の光が中を照らしている。周辺にベッドやいろいろな物が置いてある。冷蔵庫まであった。地面を指さしていろいろ言っているが、よく解からない。そのうち地面の土をちょっと掘り返して中の瓶を見せた。自家製チーズらしい。既に発酵済のチーズを別の瓶から手掴みで取ってくれた。味見をしろ、との事らしい。口に入れるとかなり塩辛い。でも独特の香りが味わい深い。これまた面白い経験をしてしまった。

そろそろ昼食の弁当配付の時間なので、後でまた来る事を伝え（ちゃんと伝わったかどうかはさだかで無い）、観測地に戻った。

弁当を配付されると、バスの中でビールを飲みながら食べてしまった。まだ正午前だ。弁当はパンに肉を挟んだ物ときゅうり、果物だった。他の人は炎天下で食べているようだ。まあもうすぐ第１接触だからそんなもんだろう。こちらもぼちぼち出発だ。今度はでっかいカメラバッグと三脚を持っている。どうも観測地を離れて撮影するのは我々だけのようだ。

再びモスクのそばに陣取った。カメラを出したり、三脚を広げているとまたまた子供たちが寄って来る。今度は紅茶（現地ではチャイと発音する）を持ってくる人がいる。これも折角の好意なので頂いた。かなり砂糖を入れて飲むのがトルコ風なんだろう。

とうとう第１接触の時間が過ぎ、日食グラス（減光フィルター）を通してみると欠けているのが判る。集まっている人たちに日食グラスを渡して見せてあげる。みんな結構喜んでいる。双眼鏡で投影しても欠け具合は良くわかるので白い紙を地面において見せたりしていた。お決まりの木漏れ日も撮っておいた。（写真１７）

どんどん欠けていく。いよいよ皆既に近くなってきた。首からツァイスの７×４２双眼鏡、左肩にニコンの１８×７０双眼鏡をぶら下げ、カメラはペンタックス６７Ⅱに５５ｍｍを付けて準備完了だ。

ついに皆既突入。シャッターを切り４秒露出の間にストロボを発光させた。すぐシャッターを巻き上げレリーズを押すとシャッターが切れない。巻き上げるとスカスカで巻き上げてしまうが、シャッターチャージが出来ないのだ。あせったが腹を決めてカメラはあきらめ、眼視に切り替えたのだった。右手にツァイス、左手にニコンで肉眼と双眼鏡でしっかり見続けたのだった。もうすぐ終わりのころ現地の住人に腕を引かれて、あそこを見ろと指差された。最初の位置ではモスクに隠れて見えなかった金星がそこには輝いていたのだった。

今回の日食はコロナの流線が四方八方に広がり、真っ赤なプロミネンスも右下が最も明るく輝きその他の方向にもたくさん見えた。とうとう第３接触となりダイヤモンドリングが美しく見えて我々にとっての日食は終わった。

結局皆既中にシャッターは１枚切っただけだった。心が動揺して眼視に切り替えた後もただぼーっと見つめていただけだった。腕を引かれるまで周辺の星を見る余裕も無かったのだ。それでも晴れたから大成功なんだ、と自分の心に言い聞かせた。

明るさはどんどん戻っていく。子供たちはまだいたので今度はＦ５にストロボを付けて、子供たちを撮った。日本の子供と違ってカメラを向けると様々なポーズをしてくれる。（写真１８，１９）スレてはいないんだな～、と嬉しくなった。日食グラスをプレゼントして観測地に戻った。

大多数の人は、あせって失敗しただの、きれいだった～とまだ興奮しているものの、最後まで観測や撮影しているまるでお仕事のような人たちもいる。私たち２名はもうビールなんぞを片手に他の人の状況観察である。

そして観測本部から第４接触終了でーす、とのアナウンスがあり拍手が起こった。撤収が始まり、ちょっとすると全員で記念写真を撮って今日の観測は終了だ。

帰りのバスの中ではビデオ上映会が早速始まっている。我々と寮で同室だった小沢氏は初めての日食なのに冷静だったようで素晴らしい映像を物にしていた。

大学寮に戻り、祝賀会が始まった。これはＪＴＢが主催らしいが、曇ったりしたらどうしたんだろう。ビールとちょっとしたツマミが並び全員で乾杯と万歳三唱をやった。食堂のテレビではニュース（写真２０）で皆既日食を放送している。どうもヨーロッパは雨や曇りが多かったようだ。

少しすると外では大雨（写真２１）の音がする。今回のツアーで初めての降水だ。なんと雷がピカピカして雷鳴が鳴り響く。ここでまた万歳三唱（写真２２）となった。観測中でなくて本当に良かった。普段はビールを飲んでいない添乗員もここでは美味そうに飲み、顔を赤くしている。私が「これで今回のツアーは９９％成功しましたね。」と話掛けると嬉しそうに「ありがとうございます。私は皆既日食は初めてでしたが、氷河の崩れ落ちる瞬間や有名な観光地のいろいろな所の経験を遥かに超える素晴らしい体験でした。」と興奮していた。

徐々に祝賀会から人が引いていくけれど、天文ガイドスタッフや我々を含む物好き（酒好き？）の一部がかなり遅くまで盛り上がってしまった。でも今夜はペルセウス座流星群の観望もあるのだ。さすがに若い連中のようにはいかず一眠りしようと２３時頃には部屋へ戻った。

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