最近、お手製のアンテナで木星の電波観測にチャレンジしている知人グループがいます。

どうやら、イオと木星の特定経度との位相と地球との位置関係などが関連して電波が受信できたりできなかったりするらしいのですが、その一環で電波観測と同時に木星の衛星位置を主として光で記録する画像を撮らせてもらう事になりました。(言ってみれば多波長同時観測の超初歩的なもの)

ところで、通常の可視光の範囲では、衛星は木星本体と比べるとかなり暗いので、衛星に露出を合わせると木星本体は飽和してしまい模様はほとんどつぶれてしまいます。
それでは絵的にあまり面白くありませんし、そもそも衛星の位置は計算可能なので、ふつうに撮るだけじゃ面白くないよね、という天邪鬼な発想も頭をもたげてきます。(笑)

とは言え、コロナグラフのように木星本体を隠すような仕組みを用意するのは大変ですし、衛星と本体それぞれに露光を合わせたショットを合成する方法では望遠鏡1本ではどうしたって時間差が生じてしまうし位置合わせも大変そうです。
そこで、無い知恵を絞って、要は本体を相対的に暗くできればいいんじゃないか、ということで、メタンバンド(889nm)で撮ってみるという邪道な(?)発想にたどりついたのです。
本体はメタンの吸収のある部分が多いので暗くなりますが、衛星はメタンによる吸収がなくて暗くならないので相対的に明るく写るというわけです。

メタンバンドフィルターでの撮影自体は、主に木星の雲の高度差などがわかるという事で木星の写真を撮る人の間ではわりとポピュラーで以前からやってみたいとは思っていましたし、専用のフィルターは半値幅の広いものなら天文ショップで容易に、しかも比較的安価に入手できる、というのも動機の一つでした。(今回は ZWO製の半値幅20nmのものを選択)

一方、889nmというと可視光ではなく近赤外(800nm~2500nm)領域の波長なので、この波長域でのカメラの感度が問題になってきます。

ふだん木星撮影に使っている手持ちのカメラは ZWO ASI290MCですが、889nm付近のQE(量子効率)は 45%ほどです。
実は、そういう情報を漁っているうちに、今は ASI290MCの後継機種 ASI462MCのさらに後継機種 ASI662MCというのが出ている事や、ASI462MCでは 889nmの QEは 80%にもなるのに対して ASI662MCでは 45%程度になること、さらには ASI462MCが(旧機種扱いで)お買い得になってきていることなどから、ASI462MCもついでに調達してしまいました。
# ASI290MCはすでに 4年くらい使っているので元はとったと言えるかもしれません。(笑)

余談が長くなりました。

10月8日(土) 21:30頃が電波のピーク時刻(予報)とのことで、この夜が同時観測のための試験日として設定されました。
本当はこの日までに試写をして各種の条件出しをしておきたかったところですが、相変わらず夜の天気が極めて悪く、ぶっつけ本番で当日を迎えることになってしまいました。
当日の天気予報は一晩中曇りというものでしたが、実際には夕方から少しずつ雲が切れ始めていたので、望遠鏡を出して備えました。

21時くらいから少し雲は切れ始めたのですが動きが速く、なかなか均一な条件で連続的に動画を撮ることができません。(わずか数分の晴れ間が続かない)

メタンバンドフィルターはとても濃いので、可視光での撮影と比べてかなり gainを上げてシャッター速度も落とし、露光量を稼がないと PCのモニタにもうっすらとしか写ってこないので、ピントを合わせるだけでも大変です。可視光であれば gainも低いので木星本体の模様がかなり細かく見えてじっくり追い込めますが、gainを上げてノイズでザラザラでろくに模様も見えないので、ここでも衛星を使って、衛星が一番シャープに、かつ明るくなるポイントで合わせることにしました。(それでもシンチレーションで明滅する像で合わせるのはなかなか確信をもてません。)

いつも可視光での撮影でやっている、連続した 6分程度の動画撮影(30秒×12本)すらなかなかできずフラストレーションがたまりましたが、なんとか 30秒動画 5本を撮って、記念すべきファーストショットが撮れました。

Jupiter image through methane-band

 

続いて、本題の衛星の位置記録です。

本体のみの撮影ではシャッター速度を稼ぐために ROIを 640×480に設定していますが、それだと衛星は本体の近傍にいない限り見切れてしまいます。
なので、ROIは設定せずに撮影することで、イオであれば拡大率などを変えずに対応できそうなことがわかりました。ROIを設定しないと速いシャッター速度が切れなくなりますが、メタンバンドの場合は幸か不幸かもともと暗くてシャッター速度を速くできないので特に問題にはなりませんでした。

ただ、AutoStakkert!3でのスタック時に、画像サイズの指定を大きくしないといけないことにしばらく気づかず、本体の拡大撮影を同じ絵になってしまうことにしばし悩んだのは内緒です。
結果はこちら↓。

2022-10-08-1255_6-u-l-jup_lapl5_ap43.jpg

衛星は本体から遠い順に、イオ、ガニメデ、カリストで、エウロパは反対側の写野外にいます。本体では GRSが右端に見え始めています。
概ね想定していたような写りになったのでひと安心しました。

今回わかった撮影条件を吟味して、次回に備えたいと思います。


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